「一の糸」

一の糸は弄うたら直ぐ替えやないかんのや

三の糸が切れたら、二の糸で代って弾ける

二の糸が切れても、一の糸で二の音を出せば出せる

そやけども、一の糸が切れたときには

三味線はその場で舌噛んで死ななならんのやで

 

 

 

所属バンドが解散したのか本人が脱退したのか、当時の記憶が曖昧。

地元に帰るというので、もう辞めてしまうのかと聞いたら

辞めたくないから地元に帰る。

東京は家賃も高いし何でも高い。

実家に帰ればバイト代全部機材に使える。

今は弦を張り替えるのもちょっと考えなきゃだし。

笑いながら冗談みたいに言って、そのままいなくなってしまった。

ライブ中に誰かの弦が切れると思い出す。

 

「一の糸」 有吉佐和子