月の美しい夜、月にかかった雲が墨絵のようにキレイだったそうである。
「うちの母ちゃんには、ホントがっかりしちゃったよ」と父親が言う。
私はもう諦めてるよ。付き合いの長い貴様が何をいまさら。
もとはといえば、貴様の責任。。。いろいろ言いたいことはある。
「見てみろよ。月に雲がかかってキレイだよ」
父は見かけによらずロマンチッカー。
毎年、月下美人の開花が待ち遠しく、咲いた夜は嬉しくて
花のそばにソファーを寄せて眠り込んだりしていた。
一方、母は超現実的。
「雲になんか乗れるわけないじゃないのよ」と吐き捨てていた。
何か嫌な思い出があるのかもしれんが。
父の言葉に「そんなこと知ってたわよ」と答える母。
情緒がないとか、そういう問題ではないだろう。
会話としてヘンだろう、その一言は。
でも、両親の会話はいつもこんな感じ。
ちっともかみ合っていなかった。
ふと思い出す。
夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」と訳したという話。
これだと通じるね。
「I love you」
「そんなこと知ってたわよ」
かみ合ってる。
父には届いてなかったみたいだけどな。