私の両腕、手の甲から肘にかけて傷だらけ。
小さい傷がいくつも。痛いってほどでもないけど、何かとしみる。
今日は初めて通る道を自転車で駆け抜けた。
いつもは絶対通らない、地元の人しか通らないよね~
っていうような、農家の大きな家が並んでいるクネクネの道。
「ミャア~」
ん !? 急ブレーキ !
どこかから仔猫の鳴き声がしたね ? したね ?
自転車を停めて鳴き声のする方に歩み寄る。
「ミャア」と小さな声は聞こえるものの姿が見えず。
どこ !?
農家のおうちの、垣根というにはあまりに厚みのある垣根の下の方。
仔猫がこちらを見ながら小さく鳴いている。
そこか !
捨て猫なのか、この家の猫なのかわからないけど
そこから出てきたら車に轢かれちゃうぞ。
こういう抜け道みたいなところは結構スピード出してくるからね。
「こっちに出ておいで~」
もちろん出てこない。手を伸ばしても届かないくらい奥にいる。
垣根の枝痛い。多分剪定したて。どの枝も鋭くとがってる。
数十分そんなことをやっていたのだが、捕獲できず。
人の家の玄関先でこんなことやってる私、アヤシイ。
次々、通り過ぎる車からの視線が痛い。
「そこにいるのよ、出てきちゃだめだからね、私は行きますから」
どうしようもないので、立ち去ろうとする私。
捕まえたところで、今の我が家で猫を飼うことは出来ない。
「ミャア~、ミャア~」
50m程離れたのに仔猫の声が大きく聞こえる。
さっきより大きい声で鳴いてる ?
引き返すと、一歩前に出ている、ような ?
「出ておいでよ、うちにおいでよ」
「ミャア」
繰り返すこと30分。
これは正攻法では無理だと思われます。
猫には「チャオチュール」って飛び道具が有効だって聞いてます。
ネットの噂で見ました。
「いいか、そこにいるんだぞ ! すぐに戻ってくるからな」
自転車をいつもの倍速でこいで、近くのコンビニでチャオチュール、ゲット。
この店に売ってるの知ってたのよ。この間見たから。
現場に戻ると仔猫の姿はない。
垣根の奥にもいないし、あたりを捜索したけどいない。
とりあえず道路に轢死体はない。家に帰ったのか???
チャオチュールを握りしめて帰宅。
買い物もせず、夕飯の支度をするのも面倒になった。
子どもが帰宅してもこの話は内緒。
「え~、何で~」って責められるから。
1ヵ月ほど前、駐車場に三毛猫が遊びに来ていた。
猫好きの子どもを呼んで、2人ではしゃぐ。
首輪はつけていなかったけれど、多分飼い猫。
だって、近寄っても逃げないし。
逃げないけれど警戒心は強くて、一歩近づくと一歩後ずさる。
そんな事の繰り返し。その間20分ほど。
猫が立ち去るまでうちの子は立ち去らないだろう。
いい加減猫に迷惑だ。
子どもを促して、立ち去ろうとすると猫の方が一歩前に出る。
最終的に、子どもにだけ一度撫でさせてくれて、立ち去る三毛猫。
うちの子はメロメロで、しばらくの間、同じ時間帯になると
駐車場をのぞいていた。でも、その後姿を見せることはなかった。
そして、諦めかけていた日曜日朝の5時。
早起き母さんが (嘘、その日だけたまたま) カーテンを開けると
そこにはあの三毛猫が !
ベランダの手すりにちょこんと座って、こちらを見ている。
目が合うと「うわっ、見つかった」みたいな顔してる。
「ちょっと待って ! お願いちょっと待ってて !」
猫に声をかけて、慌てて子どもを起こしてくる。
このチャンスを逃したら、「お母さんだけズルいっ」って絶対に言われる。
私、何も悪くないのに。ズルいことならもっと他にやってるのに。
幸い、子どもが駆けつけるまで三毛猫は待っていてくれた。
「猫ちゃん、かわいい~」窓越しにはしゃぐ子ども。
「窓開けたら絶対ダメだよ。逃げちゃって、もう来てくれなくなるから。
少しずつ間合いをつめていくのよ」
また来てほしい子どもは
「猫ちゃん、また来てね~」と言いながら猫に手を振っている。
立ち去る三毛猫。
パジャマ姿で寝起きのボサボサ頭の親子が、猫に向かって手を振ってる。
誰にも見られてはいけない姿だ。
それ以来、「猫は世界で2番目に好きな生き物だから、将来猫を飼いたい」
と言っている。「猫ちゃん飼うには、ちゃんと働いてお金稼がないと…」
ブツブツ言いながら、いろいろ考えているみたいだ。
日曜日、月曜日と立て続けに猫をみつける母。
ちっとも懐かれないのに、姿だけはみつけてしまう母。
子どもが一緒だったら、根気よく説得して (?) 捕獲できたかもしれないのに。
あの仔猫大丈夫だったかな。
あの家の飼い猫が、うっかり外に出ちゃってただけだといいんだけどな。