姉が午前中に病院に行くというので、午後からバトンタッチ。
昨日預かった洗濯物を抱えて、子どもと病院へ向かう。
しばらく姉と話をしながら、意識のない父を見守る。
今日は姉の言う「匂い」がわかる。
昨日より確実に向こう側に近づいているのを感じる。
子どもと2人、数時間ただ黙って父を見守る。
時々苦しそうに呼吸が乱れる以外は安定しているようだ。
夕方になりそろそろ帰らなくてはいけない時間。
父親の薄い頭をなでながら、言い聞かせる。
電車っていうのは結構遅くまで動いているからね。
電車が動いてなければタクシーだってあるんだからね。
呼んでくれたらすぐに来るから。
すぐには無理だけど。来るから。待っててよね。
何度も何度もしつこいくらい声をかける。
まっすぐ家に帰りたくなくて
東京駅のカルビープラスで子どもにポテりこを食べさせる。
呼び出しはかからない。仕方なく帰宅する。
もうすぐ家に到着する直前のバスの中で携帯電話がなる。
ルール違反だけれど、多分そういう内容だろうと思い電話にでる。
病院から容体が悪化したと連絡が入った、と姉から。
そのままUターンして病院に戻る。
静かな夜だった。
待ち合わせた訳でもないのに、病院に行く途中で母と姉にばったり出くわす。
「ああ」とお互い声をかけながら、なぜか4人でニコニコと手を振り合う。
病室に入ると、更に大げさな装備をした父親がいた。
兄は間に合いそうにないが、これで一人で逝かせることはない。
少しホッとする。私は父を一人で逝かせたくないと強く思っていた。
「結構気が小さいんだから脅さないでよ」と
帰宅間際に父親にした「お願い」を母と姉に笑われる。
なぜか4人がニコニコとしていて、とてもよい夜だった。
ときおり苦しそうにする父親。時間の問題だろう。
もういいよね。
お兄ちゃんは来てないけど、仕事が大事なのわかるでしょ ?
仕事頑張ってるのわかるでしょ?
仕方ないよね。
しばらく頭を撫でていたら看護師さんが現れ、慌てたように退出する。
すぐに別の看護師さんが現れ、静かにそこにいてくれる。
心電計の山が少しずつ小さくなり、やがて波を打たなくなる。
病室の空気が動く。
子どもが「今、動いたから、ちょっと動いたから」と必死に言う。
覚悟は決めたつもりだった。冷静なつもりだった。
あの、これってもう危ないってことですか ?
「もうっ、死んでるからっ ! 」姉のつっこみが入る。
そうだよね。認めたくない親子2人、本当に往生際が悪い。
29日という日付は姉と私の誕生日だ。
つまり月命日が娘達の誕生日というわけだ。
どういう嫌がらせだ。忘れられたくない感ハンパない。
1時間程たってやっと兄が到着する。残念でした。
もう意識もなかったし、仕事を放り出してくる必要はなかった。
嫌がる父親を姉が説得し、兄の運転で病院へ運んでくれた。
痩せて自分の身体も支えられず、自力では歩けなかった。
これ以上、息子に弱みは見せたくないだろう。
そういう人だったと思う。