父親の一周忌の法要が終わった。
慌ただしかったあの頃のことをいろいろと思い出す。
法要の後に鰻の白焼きをお供え。お供え膳は精進料理だったから。
鰻の白焼きは、私が父親宛に送りつけた最後の食事だ。
食が細くなり、身体が食事を受けつけなくなっていたようだ。
素麺なら食べられると言えば、揖保乃糸の特級品を送りつける。
鰻の白焼きが食べたいと言われれば、ネットで検索。
土用の丑の日が近づいて、期日指定が難しいところ
何とか最後の入院に間に合った。
その時は最後の入院になるとは、誰も思っていなかったけれど。
「うまいな」と完食したけれど、もう一つあるから明日も食べる ?
と問うた姉に「毎日はいらないよ」と笑っていたそうである。
後日食べた残りの白焼きは、思ったより脂がのっていた。
病気の身には少し重たかったのではなかろうか。
離れて住む娘の為に、最後の無理をしたのではなかろうか。
久坂部羊氏の「人間の死に方」を読んで、少し落ち込んだ。
「父さんは食べるのが楽しみな人だから、食べたがってたよ」
と姉に慰められる。
お線香を2本立てて仏壇に手を合わせる。
斎場では1本しか立てなかったのに、遺骨になって自宅に帰ったら2本。
何で ?
死んで間もない父のために、案内役のご先祖様が来てくれるのだそうだ。
父とご先祖様に1本ずつお線香をあげる。
そのご先祖様って誰 ? 前からいたの ? 急に来たの ?
疑問はつきない。冠婚葬祭って難しい。知識がなさすぎる。
そもそも心の準備も出来ていない。
ジャンケンとか「お前行けよ~」みたいな押しつけ合いじゃないといいよね。
なるべく祖父とか祖母とか新しめのご先祖様がいい。
でも、これ線香業界の陰謀だと思う。1本でいいんだと思う。
戒名をつけてくれるお坊さんが、生前の人柄を教えてほしいという。
「わかんないっ、わかんないっ」
母から姉、そして私へとバトン (受話器) が渡される。
一体、何年一緒に暮らしていたんだ、君達は。
え~、故人の人柄はですね
陽気で (お調子者で)
好奇心が旺盛で (新し物好きで)
人を楽しませることが好き (お喋り) な人でした。
後日、もったいないような良い戒名をつけていただいた。
もちろん戒名は有料です。
死んだら、みんないい人だ。
父親は悪人ではないが、まぁそれなりの人物であった。
長く患っていたので同居の家族は大変だったはず。
病人は体調が悪いと、わがままになったり、イライラしたりする。
「最近イライラして、つっかかってくるから、またできてるかも」
姉から電話がはいる。
「匂いがするの。癌の匂いがしてるの」
と言い出す母親。癌ソムリエか。
除去しても除去しても、しばらくすると現れる癌細胞。
昨今、キレる老人の話題がでるが
暴力をふるったり、犯罪を犯すのは確かに悪いことだけれど
モラルの問題だけではない気もするのである。
老いは心を弱くする。弱い犬ほどよく吠えるのだ。
お坊さんの有難いお経を聞きながら、そんなことを考える。
集中力のない娘ですみませんね。貴方の遺伝だと思いますよ。